(3)溶接継手の疲労強度
母材の疲労強度は(1)で述べたように引張強さと関係を持つが、溶接継手の場合には繰返し数が増加すると、疲労強度に及ぼす母材並びに溶加材の役割は二次的なものとなり、繰返し数N=10 6前後から疲労強度に差が現れ難くなる。例えば、表3.52は、7039(A1−4%Zn−2.8%Mg)合金を含めた溶接構造用5合金の軸荷重片振り疲労強度19)22)33)であり、溶加材の影響も含まれている。各母材の引張強さは236〜402N/mm2 の範囲にあるが、これらの疲労強度(余盛あり)σmax(10 7)は55〜76N/mm2 と差が小さく、余盛高さを板厚の13%以下に制限した7039−T61合金のみは96N/mm2 と他より高い値を示している。余盛を削除した場合は94〜122N/mm2 の範囲である。
したがって、溶接構造用の5000系、6000系(及び7000系のCuなし)合金を対象とした疲労設計規格では、母材、溶加材、ティグ又はミグによる溶接方法の影響等を無視し、同じものとして取り扱っている。この理由は、溶接部が応力集中を伴う切欠で、疲労寿命の大半をき裂の進展が占めるものと考え、一方、熱処理を施したり、加工硬化させた合金は溶接入熱による強度低下と、さらに、溶接部とその近傍は鋳造組織もしくは焼なまし組織に変わったとみなすことによって、ある程度理解できよう。
?@突合せ継手の余盛高さ
突合せ継手の余盛止端における応力集中率αには、止端の丸みρと余盛のフランク角θが大きく影響する。余盛の形状は溶接条件によってかなりばらつくので、αをどの程度に抑えられるかというのは現場作業上からも難しい問題である。経験的にいえば、すみ肉の場合も含めてα≒1.5、ばらつきの最大値でα<3が妥当な目標であろう。特に応力変動の大きい部位とか、疲労き裂を発生しては困る部位の余盛には、αか又はそれに代わるものとして高さの制限が必要であり、それを超えた場合はディスク・サンダー等を用いて負荷方向に沿って適切な形状に仕上げ(dressing)なければならない。
JlS Z 3604「アルミニウム及びアルミニウム合金のイナートガスアーク溶接作業標準」では、余盛高さを表3.53のように制限して「特に仕上げをしないビード表面は、なるべく鈍角であることが望ましい」と規定している。図3.34に示す34)ように、余盛高さhを低く、フランク角θを大きくすれば、結果的に止端の丸みρも大となって、応力集中率αも小さくなるという考え方である。
米国溶接学会35)では、余盛高さを図3.35に示すように規制しており、この制限は両面溶接よりも片面溶接の方が厳しい。平らに仕上げた場合の余盛は、母材又は溶接金属の厚さの1mm又は5%のいずれか小さい方の値以上に減少しないようにして、面の粗さを12μm以下とする。
図3.36は、両面一層ミグ溶接した5083合金板突合せ継手のフランク角θと片振り疲労強度σmax(3.10 6)の関係36)を示し、θを図面上で、例えば、θ=130°以上、或いは150°以上とか指定するのも一つの手段であることが分かる。
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